2023年10月28日

 

磯崎憲一郎の『電車道 (新潮文庫)』、読了。

明治から大正、昭和そして平成に至るまでの百年を鉄道敷設と宅地開発を軸に描いている。家族を残して出奔して洞窟に住み始めた元薬屋の男と突然選挙に立候補したものの落選してしまい伊豆の温泉地に身を隠す元銀行員の男が、関東大震災、戦争、経済復興から高度経済成長に翻弄されながら生きていく。

洞窟の入り口に置かれた笹の葉で編まれた笊に包まれていたものが「男はみたことのないものだったが、米と小豆を蒸して作った菓子のようだった」と冒頭箇所では書かれている。百年にわたる群像劇が展開し終わった最終行でその菓子のようなものが「白い饅頭が二つ」であることが判明する。百年の物語という洞窟を抜けると菓子のようなものが白い饅頭二つになるということか。